なぜ、ゲーム中毒に?/1

高校生は忙しい。

中学校で習う内容は、はっきり言って、簡単だし量も少ない。
数学でいえば、2年生後半の1次関数でつまづいたり、3年生の相似でつまづいたり
する人も出てくるが、難しくなるのは相似も終わり、三平方の定理の応用を残すくらいに
なってからだ。それまでは頑張ろうとおもっても、頑張る対象がないくらいに楽だ。
だから県立高校入試で、一高、竹高、二高、牛久英進を狙う生徒たちは、5科目で450点
以上を狙ってくる。本番で410点くらいの出来だと、不合格を覚悟しながら発表を待つことに
なってしまう。
ずっとサボっていても、中3の夏前くらいから頑張れば、ギリギリで450点近くまで点を
伸ばすこともできてしまう。県立高校の入試問題は、だいたい出る問題が予想できるので
直前の数ヶ月間に過去問演習を反復すれば、本番で合格点を取ることができてしまう。
そうした高校受験生をこれまで数多く目にしてきた。

こうした成功体験を経た高校生は、その体験がそのまま落とし穴になってしまう。
中学校では、授業はテキトーに聞いていても、テスト前だけきっちりやれば
そこそこ上位になることはできた。
1年生で部活に熱中して勉強をサボっても、2年あるいは3年になって頑張れば
なんとかなった。
中3まで、かなりサボったしゲーム三昧になっていたけれど、それでも塾に通って集中
すれば、合格してしまった。
だから高校でも同じようにやってしまう。ゲームに誘われればホイホイと乗ってしまう。
親や教師などから勉強するように言われても、聞く耳すら持たなくなっている。

しかし、高校に入ると、いきなり難易度が上がり、量も急増し、進度が異常に速くなる。
とてもじゃないが、一夜漬けのような勉強でなんとかなるようなものではない。
テスト前だけ徹夜で頑張る、みたいな、愚かな作戦が通用したのは中学校までで、
どうすればいいかさえ、わからなくなってくる。
順位もテストごとに発表されることが多く、中学校でトップグループだったプライドが
粉々にされる人も多い。

つい、サボってしまって挽回すべき膨大な量と難易度に呆然とさせられ、プライドも
ズタズタにされて、戦意を喪失しまう人が多くなるのも、やむを得ない面もある。
さらに、軽く考えていた大学受験も、行きたい有名大学はとんでもなくレベルが高く
ちょっとくらい努力しても到底手が届きそうにないことも、次第にわかってくるように
なる。

そうなると、日々の生活がとてもつまらないものに感じてしまう。
授業にはついていけないし、頻繁にあるテストでは点が取れずダメ出しばかりされるし
大学受験は日々近づいてくるし、親との関係もうまくいかなくなってくるし・・・
現実から逃避したくなる。

そんなところに、ゲームはスッポリと入り込む。
高校での勉強よりは簡単だし、すぐに上達するし、熱中しやすくてゲームをしている間
だけはほかのことを忘れていることができる。ゲームの作り手の誘い方が上手で、やれば
やるほどはまりこんでしまう。
オンラインで実際の友人等と一緒にするゲームになれば、誰かとつながっている感じ
も得られ、仲間としてあるいは敵として自分が必要とされ、自分の居場所ができたよう
な錯覚まで生まれてくる。そのゲームの攻略に関する知識や技術が、他人に認められ、
自尊心のよりどころとなってくる。費やした労力・時間を考えると、その世界から離れる
ことができなくなってくる。
こうなると、ゲームから抜け出して勉強に向かうことは、絶望的に困難になる。
楽しみを取り上げられて、辛い場所に放り込まれることになるので、全力で抵抗する。
なんとかごまかして、なんとかゲームをしようと、そのことばかり考えるようになる。
ゲーム機自体を取り上げられても、一日中ゲームのことばかり考えてしまう。まさに、
中毒患者そのものである。

県立高校に現在通っている生徒で、中毒患者にあたるような例は、多くはないかも知れない。
そうであってほしい。
中学と高校の学習内容・レベルのギャップ(いわゆる高一ギャップ)でゲーム中毒に
なってしまうのは哀しすぎる。

私が関わる生徒には、ゲーム中毒の人はいないだろうと思いたい。
もしいたとすれば、なぜ中毒になっていったのか、それを一緒に理解したい。
そこから着手しないことには、おそらく何も解決しない。
引き続き、なぜ中毒になってしまうのか、考え続け、観察し続けたい。

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WHOが「ゲーム障害(gaming disorder)」を国際疾病分類(ICD)第11版(6月18日発行)に
精神障害の一種として追加したが、状況が12ヶ月以上継続していることを診断の条件としている。
これでは、甘い。というか、手遅れになりすぎる。
1ヶ月間でも1週間でも、症状を察知すれば、すぐに手を打たないといけないと思う。

Gaming disorder  
Online Q&A January 2018
http://www.who.int/features/qa/gaming-disorder/en/

ICD-11
Gaming disorder
Gaming disorder is characterized by a pattern of persistent or recurrent gaming behaviour (‘digital gaming’ or ‘video-gaming’),
which may be online (i.e., over the internet) or offline, manifested by:
1) impaired control over gaming (e.g., onset, frequency, intensity, duration, termination, context);
2) increasing priority given to gaming to the extent that gaming takes precedence over other life interests and daily activities; and
3) continuation or escalation of gaming despite the occurrence of negative consequences.
http://www.who.int/health-topics/ICD
The behaviour pattern is of sufficient severity to result in significant impairment in personal, family, social, educational, occupational or other important areas of functioning.
The pattern of gaming behaviour may be continuous or episodic and recurrent.

The gaming behaviour and other features are normally evident over a period of at least 12 months in order for a diagnosis to be assigned, although the required duration may be shortened if all diagnostic requirements are met and symptoms are severe.
https://icd.who.int/browse11/l-m/en/gaming disorder/Description

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自分自身をコントロールし、やるべきことをきちんとやり遂げていくのは、脳の中でも
前頭前野と呼ばれる部分の関与が大きいらしい。
やっかいなことに、前頭前野は脳の中でも最もゆっくりと成長発達していく部分で、
思春期頃にようやく完成に至るとのこと。
中高生のうちは、もともと脳の機能として、自分のコントロールは困難なものと考えた
方がいいようだ。
そうであれば、中高生にゲームをどんどん買い与えるのは、まったく勧められない。
コントロールが困難な人にコントロールをより強く必要とする環境を与えたのであれば
それは与えた人が悪い。
始めに使用時間などのルールを決めて必ず守るようにしておかなければ、中毒患者に
しようとしているのと変わらなくなる。


前頭前野は認知・実行機能と情動・動機づけ機能を併せもっている
前頭前野は外側部、内側部、眼窩部に分けられる
外側部はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を主に担っている
眼窩部は情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程に重要な役割を果たしている
前帯状皮質を含む内側部は社会的行動を支えるとともに、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している
前頭前野は全体として「定型的反応様式では対応できないような状況において、認知的、動機づけ状況を把握し、それに対して適切な判断を行い、行動を適応的に組織化する」というような役割を果たしている
前頭前野は知性と衝動のバランスを取ることや、将来の計画に関わることが示される
(前頭前野の損傷患者は)計画の立案や遂行においても障害が見られ、「順序だった計画を立てたり」,「計画を完成させたり」,「重要な項目と些細な項目を区別したり」,あるいは「目標と無関係なことがらを持ち込まないようにしたり」することに障害を示す
少しだけ働いて当面のわずかな収入を得る(短期的欲求)のではなく、将来の多くの収入(長期的目標)を目標に収入がほとんどない状態を耐える、ということが出来るのもセルフコントロール能力である
前頭前野はこのセルフコントロールにも重要な役割を果たしており、損傷患者は長期的利益より短期的利益を優先する傾向にある
ドーパミンは大脳皮質の中では前頭葉に最も多く分布しており、前頭前野の働きに最も重要な役割を果たす神経伝達物質である
ドーパミンの働きの異常に関係した病気~の患者は,前頭前野機能に関係した課題で成績が悪くなる
ドーパミンは欠乏だけでなく,多すぎても~障害を起こす
前頭前野が効率的に働くためには,ドーパミン量がある「最適レベル」にある必要があると考えられている
強いストレスは前頭前野内のドーパミン濃度を上昇させる
認知機能は低下するが、濃度を適度に下げる~ような薬物を投与するとヒトでもサルでも前頭前野は効率的に働くようになる

「前頭前野」 渡邊正孝
(公益財団法人)東京都医学総合研究所 生理心理学研究部門
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/前頭前野


前頭前野損傷患者,特に前頭眼窩野に損傷を持つ患者は~場合によっては,損をするということがわかっていてもやめられない~大きな金額をすぐに手に入れたいという衝動を計画性によって抑えることができないように見える

「意思決定の脳メカニズム -顕在的判断と潜在的判断-」
(科学哲学 42-2(2009))
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpssj/42/2/42_2_2_29/_pdf